1.改正前の考え方
(1)一般社団・財団法人と相続税の課税
- 株式会社と一般社団・財団法人(以下一般社団等という)の違いは、株式会社には出資者があり、一般社団・財団法人には出資者がいないことです。 出資者がいないということは、持分がないこと、つまり所有者がいないので、内部留保金や残余財産の分配を受ける者がいないことを意味します。このため、一般社団法人等の残余財産等は、相続財産を形成しないため相続税が課税されないとされていました。
- 一般社団法人等に個人の財産を移転し、資産管理会社として贈与税等を回避する方法など、相続税対策に利用されてしまう可能性がありますので、そのような租税回避を防止するための税制も規定されています。つまり、親族等が役員の3分の1を超える場合には課税されました(相法65、66④)。
近年では一般社団法人を相続税対策のために設立していると思われる例が増えており、注目を集めていました。
(2)具体的な利用のされ方
- 売買する 売買価額は時価とされていますから、個人が取得した時の価額より時価が高い場合には譲渡益に所得税が課税されます。先祖伝来の土地の移動には多額の譲渡税が生ずるのは株式会社と同じです。しかし、建物のように取得価額がある場合には、個人に譲渡所得税が課税せれない移動が可能です。
- 贈与する(低額で渡す) 一般社団法人への贈与は、株式会社と同様に時価より低い価額での取引は時価での取引と取扱われますから、個人は時価での売買をしたものとして税金が課税され、一方、一般社団法人は、時価との差額が受贈益となり法人税が課税されます。贈与時の課税は逃れることができません。
社員として法人を支配していても相続税の課税対象外となり、相続税の節税策に使われていることが問題視されていました。
2.改正後の相続税・贈与税の課税
(1)一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税の見直し
対象となる一般社団法人・財団法人⇒ 下記のうち、営利型法人が課税対象になります。
具体的には、「一般社団法人等に対して財産の贈与等があった場合の贈与税等の課税については、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる現行の要件(役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定款の定めがあること等)のうちいずれかを満たさない場合に贈与税等が課税されることとし、規定を明確化する。 (注)上記の改正は、平成30 年4月1日以後に贈与又は遺贈により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用する」。
(2)同族関係者が理事の過半数を占める場合に相続税を課税
- 特定一般社団法人等の理事である者が死亡した場合には、当該特定一般社団法人等が、当該特定一般社団法人等の純資産額をその死亡の時における同族役員(被相続人を含む。)の数で除して計算した金額に相当する金額を当該被相続人から遺贈により取得したものとみなして、特定一般社団法人等に相続税を課税することとする。
- 1により特定一般社団法人等に相続税が課税される場合には、その相続税の額から、贈与等により取得した財産について既に当該特定一般社団法人等に課税された贈与税等の額を控除する。
- その他所要の措置を講ずる。
1.相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること。
2.相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
(注2)上記の「同族役員」とは、
一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他当該被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)をいう。
(注3)上記の改正は、平成30 年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用する。
ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33 年4月1日以後の当該一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用し、平成30 年3月31 日以前の期間は上記(注1)2の2分の1を超える期間に該当しないものとする。
3.今後一般社団法人等の役員であった者が死亡した場合には、相続税が課税されるため、相続税の節税対象として、一般社団法人等の活用が難しくなると予想されます。