平成15年の税制改正により創設されたもので、今年で15年が経過しました。さらに平成27年度税制改正において対象範囲が広がり適用しやすくなった反面、この制度の注意点も出てきたので、今回は制度のおさらいと注意点をみていきます。

1.適用条件

  1. 贈与者は60歳以上の父母または祖父母で、受贈者は20歳以上の子または孫となっています。
    この課税制度を利用すれば、2,500万円まで贈与税が課税されません。
    2,500万円を超えた金額には一律20%の税金がかかります。3,000万円の贈与であれば、非課税枠2,500万円を500万円超えますので、500万円に20%の贈与税100万円が課税されます。
  2. 住宅資金の贈与の場合には2,500万円に省エネ等住宅で1,200万円、それ以外で700万円加算され、3,700万円または3,200万円までは非課税となります。この場合には、60歳以上という、贈与者の年齢制限もありません。

    この制度は、生前贈与を相続と一体的に捉え、生前贈与は無かったものとして、相続時に取り込んで合算します。例えば、3,000万円の贈与であれば、贈与財産の価額(3,000万円)と相続により取得した財産の価額とを合計して相続税額を計算します。この相続税から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額(100万円)を控除します。
    その際、相続税額が100万円より少なく、控除しきれなかった贈与税については、還付を受けることができます。

2.注意点

  1. 贈与者の60歳以上、受贈者の20歳以上の年齢というのは、贈与した年の1月1日においての年齢、となっています。要するに、平成30年にこの制度による贈与をした場合、贈与者が30年7月1日に60歳の誕生日を迎える場合は、30年1月1日においてはまだ59歳なので適用はできません。
  2. この制度を一度適用すると、暦年贈与制度(110万円非課税)は適用できなくなります。したがって一度相続時精算課税制度を使った場合、例えばその翌年以降に100万円の贈与をした場合には、相続時精算課税制度で考えるので、この100万円と過去からの相続時精算課税制度を使った贈与の累計が2,500万円までであれば無税ということになり、超えたら超えた部分の金額の20%が贈与税として課税されることになります。
  3. 贈与者に、相続が発生した場合は相続時精算課税制度による贈与分を持ち戻し(精算)しなければならなりません。例えば1,500万円の土地を相続時精算課税制度を使って父から子へ贈与し、15年後、その父に相続が発生した時、この土地の名義は子ですが、父の相続税の税金計算においては、この土地を含めて計算をします。さらにその時に持ち戻しする金額が、15年前の贈与時の金額である1,500万円を使います。仮に相続時に1,000万円に評価が下がっていても、または逆に3,000万円に評価が上がっていても、持ち戻す金額は1,500万円になります。
  4. 相続時精算課税制度を使って贈与した土地は相続時に持ち戻すが、小規模宅地等の減額特例の要件に該当していたとしても、特例の適用は受けれません。なぜなら、相続または遺贈による取得ではないからです。いずれにしろ、小規模宅地等の減額特例が使えそうな土地は対象から外して、それ以外の財産を贈与するのが賢明であります。
  5. また、相続時に他の相続人(例えば弟など)が、生前に相続時精算課税制度を弟以外の相続人(例えば兄など)が使って贈与を受けたことが分かって揉めたり、また、恐らく一番多い問題として、相続税の申告書にこの制度を使っていたことを忘れていて持ち戻しをせずに申告し、後日追徴課税を受けたりと問題が発生しているようです。ですので、この制度を使う場合は、他の相続人にも了解を得るようにするなど、十分な注意と配慮をすることが大切になります。

3.実務面からの留意事項

  1. 選択適用の区別
    この制度では、贈与者ごとに、また、受贈者ごとに選択適用できることとなっています。つまり、贈与者である片親だけに適用することもできますし、両親共に適用を受けることもできますが、両親から贈与を受ける場合には、それぞれについて特別控除が受けられますので、父からの分2,500万円、母からの分2,500万円の合わせて5,000万円まで特別控除を受けることができます。なお、暦年贈与では、父と母からの贈与財産を全部合計して、そこから基礎控除額は父と母からの分の合わせて220万円でなく110万円を控除 します。
  2. 適用の有無
    相続時精算課税制度は、生前贈与した財産を相続時に持ち戻し(精算)して相続税を計算する制度であるから、財産の価額が上がっていくものを贈与するという場合以外は、相続税の節税にはなりません。相続税の節税をメインで考えるのであれば、この制度を使うよりも、通常の暦年贈与を適用する方がよいです。
    それでは、どのような場合にこの制度を適用するとよいかというと
    (イ)財産を贈与移転することによって、相続税以外の税(所得税など)の節税効果がある場合
    (ロ)贈与税の負担なく子や孫に資金援助等をする場合
    (ハ)収益物件のように財産が財産を生むものについては、この制度を適用して早い時期に贈与すれば、その時点から、親の財産が増えず、子がその収益を享受できるようになります。
    (二)贈与時の価額が相続時の価額より低い、つまり、評価が上昇していくと見込まれるものは、早いうちに贈与した方がいいですし、逆に評価が下がっていくと見込まれるものは贈与しては損ということになります。
    ~相続時課税制度との比較~
       暦年贈与 (110万円の贈与) 相続時精算課税制度 相続時精算課税制度 (住宅取得資金贈与)
    税金 (金額-110万円)×累進税率=税額 (金額-2,500万円)×20%=税額  2,500万円+1,200万円または700万円(住宅取得資金の贈与の特例)
    贈与者の条件 不問(だれでも贈与できる) 60歳以上の父母・祖父母 父母・祖父母(年齢制限なし)
    受贈者の条件 相続権がある子供以外の孫や息子の嫁もOK(誰でも受贈者になれる) 20歳以上の子、孫(養子でもよい) 同左
    相続税との関係 相続額から切放し(相続開始3年以内は加算) 相続時に合算される。贈与時の価額で評価 同左
    納付 単年度課税(贈与時に完了) 贈与時に納付し相続時に精算 同左
    相続税の節税効果 あり。贈与税の基礎控除年間110万円は、贈与税がかからない。 ありません。2,500万円の非課税枠はあるが、贈与者の相続時に、相続税の計算に合算されて相続税がかかる。 ありません。3,500万円の非課税枠はあるが贈与者の相続時に、相続税の計算に合算されて相続税がかかる。
    大型贈与 多年にわたり、多人数であれば可能。 一度に大型贈与がしやすい。 同左
    その他 暦年贈与をしてから相続時精算課税制度を選択すれば、両者のメリットを享受できる。 生前に財産を子に渡せる。贈与者が計画的に対策を打て、紛争防止に役立つ。 同左

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