以前タワーマンションを利用しての節税効果を封じ込めた国税不服審判所の事例を確認しましたが、同族会社との売買について、行為計算を否認する裁決がありました。
1. 賃貸用建物売買から、相続申告までの流れ
①裁決事例は、相続開始前にA社と被相続人との間で締結された賃貸用建物の売買契約が相続人の相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められるか否かが争われたものです。つまり、相続税法64条1項の同族会社の行為計算否認を適用することにより、売買契約をないものとすることができるか否かが問題となった裁決事例です。被相続人とA社の間で行われた取引は下記の内容です。同族会社との売買契約は、A社所有の賃貸用建物を被相続人が約3億7000万円で買い受けるというものです。その売却代金については、被相続人が同族会社から、その売買代金相当額約3億7000万円を金利年2%で借り受け、返済期日を20年後の一括返済とする内容の金銭消費貸借契約でした。
②被相続人の死亡により、相続人は、賃貸用建物などの資産や借入金などの債務を相続しました。相続税の申告のでは、賃貸用建物を相続税評価額の固定資産税評価額×(100%-借家権割合)=約1億2000万円として評価し、債務については、被相続人のA社に対する借入金約3億7000万円を債務控除して、相続税額を0円とする相続税申告書を提出しました。
③その後、A社は、賃貸用建物を相続開始日の2カ月後に相続人から買い戻しました。
【図】事案の概要(原処分庁が行為計算否認を適用するまでの経緯)
2. 原処分庁の更正処分等
この申告に対し原処分庁は、本件売買契約および本件金銭消費貸借契約に係る一連の行為を容認した場合には、相続人の相続税の負担を不当に減少させる結果になるなどとして、同族会社の行為計算否認を適用し本件一連行為を否認しました。この否認により原処分庁は、被相続人の遺産のうち賃貸用建物およびA社からの借入金をないものとして相続税の課税価格を再計算したうえで、相続人に対し相続税の更正処分等を行いました。
3. 相続人の主張
この課税処分に対し相続人は、相続人の相続税の負担が減少する結果が生じるのは、賃貸用建物を相続税の評価基本通達に従って、固定資産税評価額×(100%-借家権割合)として評価した結果にすぎないと主張しました。また、相続人は、借入金をもって賃貸用不動産を取得するという取引は一般的に行われるものであるから、本件一連行為によって相続人の相続税の負担が不当に減少させたものではないなどと主張をしました。
4. 審判所の判断
(1) 審判所の法令解釈は、下記のような考えでした。
同族会社の行為または計算が相続税または贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるかどうかは、経済的、実質的見地において、当該行為または計算が純粋経済人の行為として不自然、不合理なものとして認められるか否かを基準として判断すべきとしました。また、純粋経済人の行為として不自然、不合理なものかどうかは、同族会社の利益を図るという同族会社の株主ないし経営者としての立場のみに重きを置くのではなく個人としての合理性も考慮すべきであると判断しました。
(2) 審判所は、下記事項を不自然、不合理なものと判断しました。
- ①A社所有の賃貸用不動産(建物および土地)のうち、建物のみを売買の目的として借地権が設定されているが、権利金の授受がないこと
- ②賃貸用建物に設定されている根抵当権の存在を考慮せずに売買代金額が算定されていること
- ③本件売買代金の弁済期を20年度としているが、その支払いの担保が徴されていないこと
- ④A社は、賃貸用建物を相続開始日の2カ月後に相続人から買い戻していることなど
(3) (1)、(2)に基づき、審判所は下記の判断をしました。
本件売買契約書は、純粋経済人同士の間における取引としては、不自然、不合理なものです。A社と被相続人の間で相続人の相続税の負担を減少させる目的で締結されたものです。したがって、同族会社等の行為計算否認の適用を認めるとしています。
5. 本件裁決事例を受けての考え方
本件裁決事例を受けての考え方として、審判所が不自然、不合理としたものとして、 ①『A社所有の賃貸用不動産(建物および土地)のうち、建物のみを売買の目的として借地権が設定されているが、権利金の授受がないこと』については、建物のみの売買であっても、借地権の設定はないものとした、借地権の無償返還届出を提出しておけば良いわけだから、権利金の授受のないことが何故、問題とされたのか不明です。
②『賃貸用建物に設定されている根抵当権の存在を考慮せずに売買代金額が算定されていること』については、根抵当の設定は、売買価額を決める時価の算定では考慮しないことになっていますので、何故このことが問題になったかは不明です。
③『本件売買代金の弁済期を20年度としているが、その支払いの担保が徴されていないこと』について、通常の売買で、売却代金を20年後に全額一括払いというのは、取引としては明らかに非現実的で、第三者との取引実務ではありえない行為です。通常は、銀行から売買代金を借入して、売買代金を支払います。その後、銀行からの借入金を20年払いなど長期間で返済することになります。もちろん、購入した被相続人の収入が借入金を返済できる資力があることが求められます。この事案の当事者は銀行からの借入をして返済できる資力がなかったのか、そうすることが出来なかった事情があったと考えられます。いずれにしても、認められる取引ではありません。
④そして、もっとも問題と思われるのが、『A社は、賃貸用建物を相続開始日の2カ月後に相続人から買い戻していること』と思います。 これにより、相続の一時の時だけ不動産と言う形式にして、相続税評価を引下げ、2か月後は現金預金などにすることを許せば、課税の公平性が著しく害されることになります。 つまり、この買戻しがなければ、あるいは、もっと不動産として長期に相続人が利用した後での買戻しであれば、行為計算否認に該当した可能性は低かったと思われます。相続開始後2か月で買い戻したことで、相続税を不当に減少させているとみなされて当然です。 厳密な決まりはありませんが、3~5年間ぐらいは相続人が不動産として所有しておくのを前提に売買すべきだと思われます。
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