1. 趣旨

民法では、銀行の同意がなければ特定の人の債務にすることができません。しかし、借入金を負担する者を記載しないと借入債務が未分割となり、遺産の分割ができるまでは、債務控除を特定の人から差し引く事が出来ませんので、高い相続税を支払うことになります。

2. 借入債務の民法規定

借入金などの債務は、遺言書で特定の相続人である兄が債務を負担すると記載されていても、債権者である銀行などの同意がなければ兄だけの借入債務とはならず、法定相続人全員の債務とされます(民427)。財産と違い債務は、共同相続人は連帯して債務を引き受ける、連帯債務の関係になります。これを、重畳的債務引受といいます。この状況では、遺言で債務を負担するとされた兄と弟の二人が債務を引受けたことになりますから、銀行はどちらにも債権を有していることになり、遺言書だけでは弟の債務は免除されないといことになります。つまり、銀行は遺言に拘束されないで、借入の返済を兄に求めることも、共同相続人である弟に求めることもできます。なお、この規定は、銀行に対して兄だけが債務者であると主張できないことであって、遺言で兄が借入債務を負担することと記載することは、相続人間では有効です。ですから、もし銀行から請求されて弟さんが借入債務を負担した場合には、兄に返済分を求償することができます。

では、弟が銀行に対して借入債務を負担しないとするのにはどうすれば良いのか。 遺言書に借入金の負担者が兄と記載されていて、兄だけの債務とするためには、兄に十分な返済能力があると銀行が認め兄だけが返済すれば良いと同意してもらうこと。それと、借入を引継がない弟が「免責的債務引受の契約書」に自署し、実印を押印することが必要です。「免責的債務引受の契約」は、相続時に共同相続人として引受けた債務を銀行が免除するための契約書です。これを行えば、他の相続人は債務から免責されます。債務を負担したくない相続人であれば、「免責的債務引受の契約書」に署名・押印をすると思いますが、自署と実印が必要なため、だまされると勘違いして押印を拒む相続人が多くいますので、免責の意味を十分説明することが必要です(表1参照)。

3. 税務上の借入債務を単独で受けたい場合

実際に、多くの遺言書を見ても、借入債務など誰もほしい人はいないはずだという理由で、債務者を誰にするか明示していないことのほうが多いようです。 しかし、相続税対策を目的にアパートやマンションの建築資金について借入をしても、誰がこの借入債務を負担するか明示されていないと、法定相続人全員で負担することになります。この表のように、借入金の総額が財産を相続した相続人から債務控除されず、その人の相続税が高くなってしまうことがあります(表2参照)。

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