1.遺産分割協議中の預貯金仮払いの経緯
相続が発生すると、故人の預金口座は遺族(相続人)による共有扱いとなり、凍結されます。そしてその凍結された口座からは、相続人全員の同意がない限り、預金を引き出すことができませんでした。それを分けるためには全員で話し合って方法を決める「遺産分割協議」が必要になります。しかし、相続後に生前の入院代や葬儀代の支払いのため故人の預金に頼ろうとしても銀行が容易に換金に応じないことがありました。
そこで2019年7月1日から始まったのがこの仮払いの制度で、遺産分割協議の最中でも他の相続人の了解なしで一定額まで口座から引き出せるようになりました。ただし、この預金の仮払制度を使って引き出した金額は、その相続人が遺産の一部を分割で取得したとみなされます。
なお、この制度が施行されたのは2019年7月1日ですが、仮払いを金融機関に申請した日付がポイントになりますので、2019年6月30日以前に発生した相続にも適用されます。
2.預貯金引出しのための2つの方法(いずれかによる)
- 金融機関での手続き
この方法で預貯金の仮払いを受けるには、裁判所を通さずに直接銀行とのやり取りができるので、時間的にも短縮でき、余計な費用も掛かりません。 ただ、仮払い制度を使って引き出せる金額には引出金額の上限があります。
一つの金融機関ごと(複数の口座がある場合は合算)の上限額が決まっており、次の計算式で金額を算出します。
ただし、この上限は1つの金融機関ごとの上限となりますので複数の金融機関に預金口座がある場合には、それぞれの金融機関の預金口座に対して適用できます。
またこの条件は一人あたりの上限となります。
A:引き出す上限=相続開始時の預金残高×1/3×法定相続分
B:引き出す上限=150万円
Aが150万円を超える場合には、Bの150万円となります。つまり、1つの金融機関につき最大で150万円までしか払戻しは受けられません。
- 家庭裁判所での手続き
仮払いの必要性があると認められる場合、他の共同相続人の利益を害さない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになりました。この手続きは、引き出し額に上限はなく、申立額の範囲内で必要性が認められれば、特定の預貯金の全部を取得することもできる点がメリットですが、家庭裁判所への申立てなど煩雑な手続きをしなければならないので費用と時間がかかるというデメリットもあります。
(具体例) 被相続人父のα銀行の預金残高:2,000万円
相続人:母・長男・次男
長男の仮払金額
① : 2,000万円×1/3×1/4(法定相続分)=166.6万円
② : 150万円(上限)
以上より150万円の仮払が可能。
3.仮払い制度のデメリット
仮払制度を利用すると、特に使用用途を問われることもなく亡くなられた方の口座からお金を引き出すことができます。しかし、仮払いにより引き出した預貯金は相続財産の取得となり、のちに多額の借金や保証人の事実などが見つかっても相続放棄の手続きができなくなってしまいます。本ページに掲載した画像は情報サイト相続.co.jp様より転載許可を得て掲載しています。