債務は、債権者である銀行などの同意がなければ、遺言だけでは特定の相続人だけの債務とはならないため、法定相続人全員の債務とされます(民法427条)。また、債務など誰も欲しい人はいないのだからと、遺言書に債務者を誰にするかが明示されていないことが多々あります。また、債務者が明示されていないと、銀行等の債権者の同意を得るのに相続人全員の実印、印鑑証明書が必要であるなど銀行から要求されます。 これでは、遺言の本来の効果が ありません。


そこで、民法の改正で、遺言で長男がアパートの借入金は長男が負担すると記載してあれば、相続人に反対者がいても、銀行と債務を引受ける長男との間の合意によって債務引受を行うことが 出来るように改正されました。例えば、アパートやマンションの建築資金を借入金で行う目的の一つは相続税対策ですが、この借入債務の負担者を遺言書に長男と記載すれば、他の法定相続人の同意は不要で、銀行との合意だけで、債務控除ができます(改正民法472条、令和2年4月1日から施行)。

<銀行との合意方法>

1.三者間の合意

改正前の民法では、債権者(銀行など)と債務を引受ける長男のだけの合意では、免責的債務引受は認められないので、次男が債務負わないとする免責的債務契約に同意しなければ、免責的債務引受が出来ないとしていました。つまり、三者の合意が必要でした。



2.債権者と引受人との契約、債権者から債務者への通知

三者合意に加えて(1)債権者と引受人となる者が契約して債権者が債務者に通知すること(改正民法472条2項)、及び(2)債務者と引受人となる者が契約して債権者が引受人となる者に対して承諾すること(同3項)。で成立するとした(改正民法472条免責的債務引受の要件及び効果)。


改正民法は、免責的債務引受は、債権者と引受人となる者が契約して債権者が債務者に通知することによって成立する旨を規定した(改正民法472条2項)。 したがって、今後は、遺言があって、長男を銀行の借入金を返済可能な資力があると銀行が認めれば、二男に債務の免除の通知をするだけになるので、債務を長男が負担することに二男の同意は不要になります。そもそも、免除は本来債務者の同意を得なくても可能のはずなので、債務者の意に反する免責的債務が出来ないことが問題でした。

3.債務者と引受人となる者が契約、債権者が引受人に対して承諾



なお、債権者の関与がないままで債務者を認めると、引き受けた者が無資力であるような場合もあるので、債権者の利益を害することになります。そこで、改正民法では、引受人(長男)と債務者(二男)との間の合意による免責的債務引受の成立には、債権者(銀行の承諾が必要であると規定した(改正民法 472 条 3 項)。遺産分割協議書で長男と二男との話し合いで、債務の負担者を長男と合意したら、二男に対しての免責的債務契約は必要なく、銀行の承諾だけでよいことになります。

改正の効果
債務者の意思に反しても、債権者と引受人との間の合意によって免責的債務引受を行うことが可能になります。

用語の意義

イ、「債務引受」
「債務引受」とは、債権者に対して負っている債務を第三者が債務者に代わって引き受けるということです。 この債務引受には、「免責的債務引受」と「重畳的債務引受」との2種類があります。

ロ、「免責的債務引受」
免責的債務引受では債務は引き受けた者に移ることになりますので、旧債務者の債務は免除されることになります。 免責的債務引受は、債務を引き継ぐ引受者の信用状態が債権者にとっては大きなリスクになりますので、債権者の承認が必要となっています。

ハ、「重畳的債務引受」
重畳的債務引受というのは、債務を引き受ける側が、従来の債務者とともに連帯して同等の債務を負担するものです。 つまり、重畳的債務引受の場合であれば、引受者と従来の債務者は連帯債務者の関係になるので、債権者は従来の債務者、引受者のどちらにも債権を有していることになり、従来の債務者の債務は免除されないといことになります。

二、「免責的債務引受」と重畳的債務引受」とはどう違うのですか?
「免責的債務引受」と「重畳的債務引受」との大きな違いは、債務が免除されるかどうかです。「免責的債務引受」では債務は引受者に移ることになりますので旧債務者の債務は免除されることになります。ところが、「重畳的債務引受」の場合には、あくまでも引受者は連帯債務者なので、万が一引受者が破産や倒産した場合には旧債務者が債権者に対して債務を返済しなければなりません。

では、弟が銀行に対して借入債務を負担しないとするのにはどうすれば良いのか。 遺言書に借入金の負担者が兄と記載されていて、兄だけの債務とするためには、兄に十分な返済能力があると銀行が認め兄だけが返済すれば良いと同意してもらうこと。それと、借入を引継がない弟が「免責的債務引受の契約書」に自署し、実印を押印することが必要です。「免責的債務引受の契約」は、相続時に共同相続人として引受けた債務を銀行が免除するための契約書です。これを行えば、他の相続人は債務から免責されます。債務を負担したくない相続人であれば、「免責的債務引受の契約書」に署名・押印をすると思いますが、自署と実印が必要なため、だまされると勘違いして押印を拒む相続人が多くいますので、免責の意味を十分説明することが必要です。

本ページに掲載した画像は情報サイト相続.co.jp様より転載許可を得て掲載しています。