1.本件取引
2.判決要旨
<財産評価基本通達によらず鑑定評価をした理由>相続税では、「 時価は財産評価通達の定めによって評価した価額による旨を定めている」 しかし、「評価通達を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって」かえって、「租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかな場合には」 つまり、「特別の事情がある場合は」例外的に、「他の合理的な時価の評価方法によることができる」としています(総則の6項)。
特別の事情とは、
(ア)通達評価額と不動産の時価との間に著しいかい離があること。
(イ)不動産に係る被相続人等による一連の行為が専ら相続税対策を目的とするものであったこと。
(ア) 通達評価額と不動産の時価との間に著しいかい離があること
甲不動産の通達評価額は 2億004万円であるところ、鑑定評価額は7億5400万円であり、鑑定評価額の約26.5%にすぎない。また、購入額は8億3700万円であり、通達評価額は、購入額の僅か約23.9%にすぎず、両者には著しい価額のかい離がある。
乙不動産は、1億3366万円であるところ、鑑定評価額は、5億1900万円であり、鑑定評価額の約28.8%にすぎない。
また、購入額は、5億5000万円売却額は、5億1500万円であり、通達評価額は、これらの僅か約24.3%又は約26%にすぎない。それぞれ著しい価額のかい離がある。
(イ)不動産に係る被相続人等の一連の行為が専ら相続税対策目的である
①被相続人が、当時90歳であった平成20年に、M銀行に対して、事業承継について事業経営財務診断を申し込んでいたこと、②被相続人による各不動産の購入及び購入資金の借入れには、相続税の負担軽減の目的があったこと、③被相続人が、事業承継のための方策の一環として原告Eと養子縁組した時期と近接した時期に、各不動産を取得していること各不動産の取得により負担すべき相続税を免れることになることを認識した上で本件各不動産を取得したと認められ、また、本件被相続人及び本件共同相続人による本件各不動産の取得及び当該取得に伴う資金借入れ等の一連の行為は、専ら相続対策を目的とするものであったと認められる。
相続税の負担の軽減を図る目的で行われた行為を評価通達によらないことが許される特別の事情があると判示されている
3.この判決を受けての問題点と疑問点
①甲不動産は購入から3年5ヶ月経過している
1 個人での相続税評価額について、昔は「旧措置法(昭和63年成立平成8年廃止)69条の4でいわゆる「3年しばり」の規定があった。つまり、節税対 策を封じるため「被相続人が相続開始3年以内に土地又は建物等を取得した場合には、取得価額、とする旨」を定めていました。
2 法人では現在の規定でも「3年しばり」があります。 財産評価基本通達185
→ この「3年しばり」は不動産を取得して「3年」を越えたら大丈夫という 安心感を与えていた。「3年ルール」が、どうなるのか? 本判決は「暗黙のコンセンサス」を破ったことになる(品川教授)
個人だけが「3年以内」ルールがなし?法人は「3年」越えれば大丈夫か?
②土地の評価額は、路線価は時価の80%。更に、貸家建付地の評価減がある。 → 評価通達が評価の安全性から相続税評価は、公示価格の80%評価水準が求められています。 → 建物は固定資産税評価額は建築価額の30%~40%、更に貸家の評価減30%があります。この適用をしてないことが、時価との差異を生じさせています。
→ なお、鑑定評価では、現況で判断して評価しているので、賃貸物件は賃貸していることを前提に評価しているので、更に、貸家建付地や貸家の評価減をする余地はないとしているが、そもそも、評価減の規定が時価を反映してないだけでないか。
→ 例えば、鑑定評価が公示価格・建築費と同様の時価であれば、相続税評価額は本来ならば以下の通りになります。
1.甲不動産を土地と建物に区分した鑑定評価額と相続税評価の比較表
2.鑑定評価額を公示価格・建築費と考えた場合の相続税評価額
土地3億0800万円×80%(公示価格の80%)×79%(貸家建付地評価)=1億9500万……この金額は上記の相続税評価1億1368万円と大差がない。 建物4億4600万円×40%(固定資産税評価額は建築費の40%とした)×70%(貸家評価)=1億2400万円 ……この金額は相続税評価 8636万円と大差がない。
③首都圏の商業地区など駅近の物件はほとんど評価が購入価額に対して20%~30%です。
→ 今回の物件以外も全て20%~30%と言うのであれば、つまり、他の相続人も同様の申告をしているのに、何故か私だけと言うのであれば、その挙証責任は納税者が負うとされています。
→「課税庁が殊更恣意的に本件についてのみ異なる取扱いをしたというような特段の事情がない限り、これをもって直ちに租税公平主義に反するものとはいえない」としている。
④経済的合理性
→ 事業用資産の買換えや生活拠点の確保など納税者の行為に経済的な合理性があったとしても、当該目的によって、特別の事情の有無の判断を左右する事情とはいえないとしています。
⑤納税者の税務署への信頼
特別の事情で、評価通達6が適用されるにしても、納税者は評価通達に従って、評価したものである。つまり、課税庁が公開している評価通達を適正に適法に従っただけで、その後、数億円の追徴課税処分されている。これは、納税者の課税庁に対する信頼を裏切る行為である。
→ 評価の著しい乖離は評価通達が適切でないことを伺わせる
(T&AmasterNO859)
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