このように、株を保有している人に相続が発生した場合に、その相続人は会社とは関係が薄いことがあったり、またはその相続人に株式を承継されることが会社にとって好ましくない事態を生じさせる可能性もあります。
会社法は、このような事態を避けるために、会社が株を相続した人に対して売渡請求を行い、その人の同意がなくても、その株式を会社が取得することができるものとしています。
今回はこの制度のご説明をします。
1.相続人に対して株式の売渡請求を行うための前提条件
①その株式が譲渡制限株式である
②定款に売渡請求ができる旨の内容を定めている
③株主総会の特別決議の承認を得る
④被相続人の死亡から 1 年以内 に売り渡し請求の通知をする
⑤剰余金の分配可能額 の範囲内の買取である
2.具体的な内容
①その株式が譲渡制限株式である
中小企業の多くの発行株式が、譲渡制限株式であると思われます。
株主が会社の株を会社の許可なく売却してしまうことに制限をかけている仕組みです。
会社の株式が譲渡制限株式かどうかを確認するには、会社の定款や登記簿謄本を見ればわかります。
②定款に売渡請求ができる旨の内容を定めている
株式会社は、相続によりその会社の株式を取得した相続人に対し、その株式をその株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます。
こちらについても定款を見ていただければ、この旨の定めがあるかの確認が出来ます。
定めがない場合は、株主総会の特別決議によって定款を変更し、この規定を新たに設けることが出来ます。
③株主総会の特別決議の承認を得る
会社は、株主総会の特別決議によって、売渡し請求をする株式の数と売渡し請求をする株主(相続人)の氏名を決定します。なお、売買価格は決議する必要はありません。
④被相続人の死亡から1年以内に売り渡し請求の通知をする
⑤の株主総会の決議に基づいて、その請求する株式の数を明らかにして、売渡し請求の対象とした相続人である株主へ請求(通知)します。
なお、この請求は、株式会社が株主に相続があったことを知った日から1年以内にしなければなりません。相続により複数の相続人が株式を相続した場合、被相続人の遺言などがなければ遺産分割協議がまとまるまでは、株式は相続人全員の共有状態にあるため、法定相続人全員を対象に売り渡し請求をする必要があると考えられています。
買い取る価格は必ずしも明示する必要はありませんが、通常は会社が一定の株価評価をして、価格を提示します。
売渡請求を受けた相続人は、価格の点を除き、この売渡請求自体を拒絶することはできません。
⑥剰余金の分配可能額の範囲内の買取である
株式の売買価格は、まずは会社と相続人との間の協議によって決定することとなりますが、協議が整わない場合には裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます。最終的に和解により売買価格が決定されることもあります。ただし、売渡請求があった日から20日以内に、当事者間の協議も整わず裁判所への売買価格の決定の申立てもなされなかった場合には売渡請求は効力を失います。
なお、この手続きにより会社が株式を取得するときは、買取の行為により株主に対して交付する金銭等の総額は、その会社の剰余金の分配可能額を超えてはならないとされています。したがって、債務超過の会社は、株式を買い取ることが出来ないということになります。
3.注意事項
2の②にあるように、定款に相続人に対する株式の売渡し請求の記載があったとしても、実際に相続人に対して売渡し請求をするかどうかは任意ですので、とりあえずこの規定を定款に定めておいても損は無いように見えるかもしれません。 しかし、2の③の相続人に売渡しの請求をすることを決定する株主総会において、株式を承継した売り渡し請求の対象となるその相続人等は、議決権を行使することができない点に注意が必要です。
これは、少数株主に相続が発生したときだけではなく、主要な株主に相続が発生した場合でも同様です。例えば、創業者であり大株主である被相続人に相続が発生した場合、残りの株式を保有する少数株主から、創業者の相続人である後継者に対して売渡し請求がされて、支配権を失う可能性もあるということです。 これに対する対策としては、下記のようなものが考えられます。
①創業家や事業を継承する株主の保有する株式については、譲渡制限株式としない方法
②創業家以外の株主の保有する株式については、相続人に対して株式売渡請求を行う議案についての議決権を制限する種類株式とする方法
③創業家の株式を保有するための法人を設立し、その法人に株式を保有させておく方法
④生前贈与により事前に後継者に移転しておく方法
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